鈴木健司の作品たち

 鈴木健司の作品は、木地から仕上げまで細部にわたって、彼のこだわりが行き届いたものとなっている。
 その特徴を言葉にすると、堅牢で美しく、使いやすい。そこに驚きも加わる。
 その驚きとは、鈴木健司が丁寧に塗りあげた漆の感触だ。手に持ったとき、木地が年輪の詰まったケヤキであるために力強さが伝わってくる。しっかりしていて、あやふやなところがないフォルムも安心感を与えてくれる。
 そしてそれを口に持っていったとき、誰もが驚く。濡れてもいないのにどこまでもしっとりと艶やかな漆の質感が唇に伝えられる。心地良ささえも覚える感覚だ。
 きっとこれは、鈴木健司が漆に覚える艶やかさなのだろう。緑に抱かれた森の中でウルシの木が乳白色の漆を染み出させる。その不思議な色気をまとった艶やかさ。鈴木健司の漆器には、ウルシの不思議さまで込められているような気がする。

 鈴木健司の作品といえば、忘れてならないのが、浄法寺の森で彼が掻き採った漆である。
 鈴木健司は年間約400本のウルシの木から漆を掻き採る。1本のウルシの木から採れる漆は約200ミリリットル。手間暇から考えると実にわずかだが、400本を巡るとなるとそれなりの量になる。当然、鈴木健司が自分で使う量をはるかに超えている。
 そこで鈴木健司は、自らの足で全国の塗師をめぐり、浄法寺漆の良さ、自分が採取する漆の特徴を伝えてきた。その甲斐あって、今では自らの仕事にこだわりを持つ多くの塗師たちに支持されている。鈴木健司の漆でないと作品が作れない。鈴木健司の漆は今、そういう成長を遂げつつある。
 漆は昔も今も、漆芸の素材であることには違いない。ものづくりの技があってこそ素材は生かされる。しかし逆に考えると、ものづくりの技を支えるのは優れた素材でもある。とくに漆塗りの場合、漆という素材の重要さは推して知るべしだ。
 鈴木健司の漆は、全国の塗りの現場で、作家たちのものづくりを支えているのだ。